景観生態学とは
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「景観」とは?
「景観」は,森と草地のような異質な生態系(景観要素)がモザイク状に分布する空間の,全体的なシステムです.池の周囲が森に囲まれている場合と草地に囲まれている場合では,池の中の生物の種類は異なるでしょう.結果として,その池が地域の中で果たす役割(機能)は異なることとなります.また,地域の中にある森の面積が同じであっても,それが1つの森としてまとまっている場合と複数にわかれている場合では,森の中の生物の種類は異なり,そして森が持つ機能も異なることになります.このように,景観に含まれる生態系(景観要素)の空間配置と生態系のプロセスや個々の生態系が持つ機能の間には密接な関係があります.
景観は,人間活動の影響を受けて大きく変化します.そのため,景観の全体像を知るためには,自然科学的な側面のみならず,社会・文化的な側面をも含めたアプローチが必要となります.
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「景観生態学」とは?
「景観生態学」は,「景観」という空間の諸特性を,様々なスケール,様々な視点から階層的に解明していこうとする学際的な学問です.それは,生態系機能を発揮させ続けていくために必要な地域計画や土地利用施策,すなわちエコロジカル・プランニングに,科学的・論理的基盤を提供します.
主要テーマは以下のようなものです.- 自然域から都市域まで,様々な場における景観の構造,機能,及びそれらの変化過程
- 景観の構造を創出する生態的・社会的プロセス,逆に景観構造が規定する生態的・社会的プロセス
- 人間活動が景観構造,生態的機能,生態的過程にどのような影響を与え,それらを変化させるのか
- 複数の空間スケールを用いての生態的過程の解明
- 人の感性や文化を含めた景観の総体の理解
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景観生態学:科学と実践
景観は,今までにも増して急速に,また激しく変化し,そして,土地利用上の対立や生態的基盤の劣化が顕在化しています.今,そのような問題の解決に有効な土地利用や地域計画の手法,地域生態系の管理技術を確立し,それが活かされていくしくみを構築しなければなりません.
景観生態学研究者は,科学的な検証をとおして,景観生態学の理論・ツールの応用性や精度を高めていくための努力をしています.一方で,研究上の,あるいは課題解決のために立てたられた仮説や,それによって得られる結果の精度,具体の施策や実践に活用する際に生じ得るリスクも,意思決定者に伝えていきたいと考えています.
景観生態学の理論やツールを具体の問題解決に役立てようとするとき,その場に内在する様々な考え方の統合が促されることになります.景観生態学の基盤には,理論や情報を「統合」し,「整合」させようとする興味があるからです.景観生態学のトレーニングを受けた者は,いろいろな情報や考え方を統合することに興味を持ち,かつ,その重要性を知っています.
日本景観生態学会の使命とビジョン
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日本景観生態学会の使命
日本景観生態学会の使命は,生態的土地利用施策,国土・地域のエコロジカル・プランニング,生態系管理の基礎となる景観生態学を発展させていくことです.
景観の構造やプロセスに関する理論の構築,土地利用計画への応用,景観や生態系の保全・修復活動の実践,といった景観や空間の諸側面に興味を持つ研究者,技術者,行政担当者,市民・NPO等の情報交換を促進し,そして,理論やツールを様々な場での問題解決に使えるようにしていくことを目指します.
日本景観生態学会のメンバーは,生態系機能が持続的に発揮され続けられ,そして生態系サービスを永続的に享受できる持続可能な社会の構築に向けて,それぞれの場で役割と責任を果たしていかなければなりません. -
日本景観生態学会のビジョン
日本景観生態学会は次のようなビジョンを持って活動していきます.
- 景観生態学としての研究成果や技術を学会内で共有し,そして,社会に広めていくこと
- 生物・生態学,社会科学,人文学,土地利用プランナーといった様々な背景を持つ者が,真に協調し,積極的に協働を行っていくことで,景観生態学の確固たる領域を構築すること
- 景観生態学的な論理に基づく自然資源管理,地域計画,保全,土地利用施策が社会に根ざすこと