次期・生物多様性国家戦略で推進すべき事項についての提案

要約

基本方針

  1. 複数の機能を同時に発揮できる生態系が、地域のインフラの核として活用され、持続的に維持されることを目標とし、その達成に必要な土地利用や空間利用のあり方を示す。
  2. 自然資本、社会資本、社会関係資本に基づくエリアマネジメントを行っていけるよう、まずは、エコリージョン区分に基づき、国土のあるべき姿を描きだす。そして、国立公園、国定公園等の自然地域、中山間地域、農業地域、沿岸地域、都市域等、それぞれの地域に適した生態系インフラの構造とそれらの配置方針を示す。
  3. 生態系インフラを持続的に管理運用していくための指標とともに、風土性を生かした社会の仕組み、行政施策を示し、関係省庁・自治体、学会、NGO・NPO等との連携のもとで推進する。

 

具体的事項

1.エコリージョン区分に基づく国土管理・利用のあり方の提示

(1)気候、地質等の自然的条件によって国土をエコリージョン区分したうえで、それぞれの区域において社会資本と自然資本の賦存状態を考慮・評価し、国土管理・利用の方向性を示す。
(2)これをもとに、享受すべき生態系サービスの最適化方針を地域ベースで示すとともに、それぞれの地域に残存する生態系インフラの保持あるいは改善をとおした、機能の保持・改善の道筋を示す。

2.国立公園・国定公園の位置づけの再定義とそれに基づくゾーニング

(1)蓄積された科学的資料と近年の空間解析手法を用いて、各々の国立公園および国定公園の自然誌的な位置づけを整理・再定義したうえで、保全目標を明確にする。
(2)国立・国定公園内の植林地については、自然林への再生を目指す。
(3)人流データも活用しながらリスク評価を行い、ゾーニングも含めた具体の保護・活用方針を示してゆく。また、状況を効率的にモニタリングする手法も、あわせて構築して示してゆく。

3.国土保全型、地域創生型の森づくり

(1)森を核とする新たな暮らしや価値創造も含め、国土保全型、地域創生型の森づくりのアイディアや具体の道筋を集積し、発信してゆく。

4.農地の多機能性を発揮させるための仕組みづくり

(1)水田から得られる調整サービスやそれを活かす知恵を評価し、受け継いでいける仕組みをつくる。
(2)低平地窪地地形内等の内水氾濫常習地となっている水田地帯は、耕作地を維持していくことが洪水災害リスクの低減につながる。その調整サービスを活用しながら、多様な水辺生物の生息・生育が可能となる仕組みを構築する。
(3)社会的な仕組みを構築するうえで、農地からのサービスとして作物だけを得ているわけでないことを、消費者が認識できるよう支援する。エシカル消費推進の施策等とも連動させつつ、モデル的な取組を推進する。
(4)今後の人口減少社会を見据え、内水氾濫常習地にある農地を生物多様性保全の重要拠点とし、再自然化を行いながら遊水機能を確保することなど、国や自治体主導による積極的な土地利用再編を検討する。

5.海岸エコトーンの統合的管理

(1)海岸エコトーンが持つ防災機能を持続的に発揮させるための、生態系のダイナミズムを取り込んだ管理技術を構築する。

(2)地域住民が海岸マツ林等に日常的に関わり、自律的に管理していこうとするボトムアップの活動を促進する施策が必要である。そのために、自治体による地域自治政策の推進を支援していく。

6.都市化によって劣化した生態系機能のミティゲーション

(1)都市洪水対策としての雨庭や雨水貯留タンク設置に関するガイドラインを自治体が策定できるよう支援し、行政、事業者、自治会、協議会等、様々な主体による取り組みを促進する。
(2)熱中症対策として、街路樹の量を増やし、また、質を向上させる
(3)雨庭、街路樹、緑道、屋上緑化等をあわせ、緑のネットワークを形成していくためのガイドラインを作成する。

7.地域の歴史・風土にもとづく自然資本の管理

(1)地域の人たち等によって自主的な生態系管理活動が行われている場所を地図化し、見える化しながら、ネットワークを構築する。
(2)それら活動によって生息地・生育地管理されている場所・地域については、OECM (Other Effective Conservation Measure)、PPA (Private Protected Area)、VPLP (Voluntary, Permanent Land Protection)等の枠組みを活用しながら、保護区に準じる場所として認定する。
(3)地域の歴史・風土に基づき行われている保全活動を支援する施策をとおして、「生物文化多様性」の保全にもつなげてゆく。

8.企業参入の仕組みの構築

(1)各地で導入されているローカル認証の有効性を検証しつつ、エシカル消費推進の施策等とも連動させたモデル的取組を推進する
(2)市民団体が安定した活動を展開できるよう、企業等による助成が拡大することが望まれる。そのためにも、表彰制度等を設け、あるいは既存の制度を活用することで、地域内で自然環境保全活動を行っている団体への助成を行っている企業等を積極的に評価する。

9.人材の育成と配置

(1)国立公園のレインジャーに、生態系を活用しつつ保全していくための活動をプロデュースし、活動に必要な人を結びつけマネジメントしてゆこうとする熱意・資質を持つ人材を配置する。
(2)国立公園レインジャーは、周辺地域の博物館やNPO等と連携し、互いの活動を接続させてゆくことで、エリアマネジメントの拡充を図る。環境省は、地域の博物館や資料館を支援する。
(3)NPO等の民間団体、大学、行政等が連携して人材育成を行う仕組みが作られている地域もあり、国はこうした取り組みが各地で展開されるよう支援策を講じていく。
(4)地方自治体や基礎自治体に生物多様性の専門家が配置されるよう、積極的に働きかける。

10.データに基づく政策策定プロセスの強化

(1)生物多様性の総合評価、科学と政策の結びつきを強化していくため、データの収集・蓄積、分析、公開・共有といった情報流通の機能を強化する。
(2)解析用のアプリケーション等から直接データを検索、取得できるよう、API機能を備えたデータベースを拡充する。

11.戦略的環境アセスメント実施のための仕組みづくり

(1)国による戦略的アセスメントの制度づくりが遅れる中で、自治体が戦略的アセスメントを率先して実施した事例がある。国は、そうした施策を講じようとする自治体を増やしていくための支援策を講じる必要がある。
(2)風力・太陽光発電等の自然エネルギー導入を推進するうえで戦略的アセスメントを実施しておくことが、コンフリクトを回避し、円滑な事業実施に寄与する。
(3)戦略的アセスメントの基盤情報となる生態系レッドリストの作成を国として検討するとともに、これを策定する自治体の増加を促すための支援施策を講じる。